(1) 全体フロー
入力として壁の形状(階高 H、壁長 W、壁タイプ)、面材の諸元(面材高さ・Y位置・外周釘ピッチ pout・中通り釘ピッチ pin・間柱ピッチ・配置・釘配列タイプ・へり空き)、
および材料特性(面材厚 t、せん断弾性係数 GB、釘剛性 k、降伏変位 δv、終局変位 δu、釘降伏耐力 ΔPv)を受け取り、以下の順に計算します。
① 面材ごとに釘位置を生成 → ② §3.2 釘配列諸定数(Ix, Iy, Ixy, Zx, Zy, Zxy, αx, ZPxy, Cxy)を計算 →
③ §3.3 面材単位の K0, My, Mu, μ を計算 → ④ 2面材の場合は合算 → ⑤ 式(3.3.1) より許容せん断耐力 Pa、単位長当り ΔPa、壁倍率 を算出 → ⑥ 上限チェック・座屈検定 → ⑦ 描画。
(2) 釘位置の生成 — generateNails
面材の「配置」(縦置=長辺が縦、横置=長辺が横)と「釘配列タイプ」の組合せにより、釘位置を決定します。座標系は面材の左下を原点、+x が幅方向、+y が高さ方向です。
- 口型 — 四周(上下左右)に外周釘ピッチで打つ。中通り列なし。
- 日型 — 口型 + 長辺方向に平行な中通り列を間柱・根太ピッチ間隔で配置。中通り列は外周釘と同じピッチで両端にも釘を配置。
- 川型 — 長辺方向の 2 外周列(+間柱・根太ピッチ間隔の中通り列)。短辺方向の外周列は打たない。中通り列には端点を含める。
- 山型 — 川型 + 短辺方向外周 1 列(上端または左端)。
各列の釘本数 n は n = max(⌈span/p⌉+1, 2) とし、端点を含めて等間隔に再配分(pp = span/(n−1))します。
端部以外の最外縁は「へり空き 長辺側 eoL」「へり空き 短辺側 eoS」の分だけ面材外縁からオフセットします。
(3) §3.2 釘配列諸定数 — calcCoef
釘 N 本の座標 (xi, yi) から、まず重心 (x0, y0) を求めます:
x0 = (1/N) Σ xi, y0 = (1/N) Σ yi
釘群の断面二次モーメント類:
Ix = Σ(yi−y0)², Iy = Σ(xi−x0)² …(3.2.2)
Ixy = (Ix·Iy/(Ix+Iy))/Aw …(3.2.1)
断面係数と合成断面係数:
Zx = Ix/(yi−y0)max, Zy = Iy/(xi−x0)max …(3.2.4)
Zxy = 1 / (Aw·√(1/Zx²+1/Zy²)) …(3.2.3)
ここで Aw = B·H は面材の見付面積です。
本実装は 0 除算ガードとして、dxMax=0 または dyMax=0 の場合に対応する Z を ∞ とし、合成では 1/Z² 項を 0 として扱います。
αx 法による最大釘せん断力の補正係数:
αx = Iy/(Ix+Iy) …(3.2.7)
ZPxy = (1/Aw) · Σ √{((yi−y0)·αx)² + ((xi−x0)·(1−αx))²} …(3.2.6)
Cxy = max(ZPxy/Zxy, 1.0) …(3.2.5)
(4) §3.3 面材単位の耐力係数 — calcPanel
面材の初期剛性(釘と面材せん断の直列合成):
K0 = Aw / ( 1/(Ixy·k) + 1/(GB·t) ) …(3.3.14)
降伏耐力・終局耐力:
My = Aw·Zxy·ΔPv …(3.3.12)
Mu = Cxy·My …(3.3.13)
塑性率:
μ = (δu·GB·t + δv·Ixy·k) / (δv·(GB·t + Ixy·k)) …(3.3.15)
本実装では分母 0 回避および μ ≥ 1 のクランプを行います。
(5) 多面材(腰壁+垂れ壁)の合算
腰壁と垂れ壁(あるいは 2 枚積み)の場合、各値は次のように合算します:
K0,合計 = ΣK0,i, My,合計 = ΣMy,i, Mu,合計 = ΣMu,i, μ合計 = min(μi)
(6) 許容せん断耐力 Pa
階高 H に対する許容水平せん断耐力:
Pa = (1/H) · min( My, K0/150, 0.2·√(2μ−1)·Mu ) …(3.3.1)
My は降伏耐力基準、K0/150 は 1/150rad 時変形規定、0.2·√(2μ−1)·Mu は塑性率換算した終局基準です。
最小値が支配します。√ 内が負となる場合は 0 にクランプします。
単位長当たり耐力と壁倍率:
ΔPa = Pa/(W/1000) [kN/m], 壁倍率 = ΔPa/1.96
また 許容せん断耐力上限 ΔPa ≤ 13.72 kN/m を自動チェックします(適用範囲外のときは NG 表示)。
(7) 基準耐力壁からの k, ΔPv 推定
基準耐力壁(全面壁・日型・縦置)の面材寸法・釘ピッチ・壁倍率から、現在の材料プリセットの t, GB, δv, δu を固定したまま、
釘剛性 k と釘降伏耐力 ΔPv を k:ΔPv 比を保ちつつ反復解法で推定します。
反復は緩和係数 0.85 を用いた Picard 法です。
k(i+1) = k(i) · (1 + 0.85·(Pa,target/Pa,(i) − 1)),
ΔPv,(i+1) = k(i+1) · (ΔPv,(0)/k(0))
(8) 面材のせん断破壊・座屈検定
発生せん断応力度:
τN = Cxy·Zxy·ΔPv/t [N/mm²] …(3.3.8)
面材のせん断座屈応力度(§3.3.11 の近似式):
α = GB/√(E1·E2), β = (a/b)·(E2/E1)1/4 (≤ 1.5)
Cα = 10.846β² − 10.82β + 13.729, S = 0.79α + 0.17β + 0.93
τcr = ξ·t²·Cα·S/(3·a²) · (E1³·E2)1/4
判定: τN < τmax(面材材質の許容応力度)かつ τN < τcr であれば OK。
(9) 数値安定化のためのガード
- Ix+Iy = 0 のとき Ixy = 0, αx = 0 とする。
- dxMax=0 または dyMax=0 のとき対応 Z を ∞ として合成。
- 2μ−1 < 0 のとき 0 にクランプ。μ < 1 のとき 1 にクランプ。
- Ixy·k = 0 または GB·t = 0 のとき K0 = 0(計算不能)。
(10) §3.4 真壁(受材を介した面材耐力壁) — calcShinkabe
真壁は、面材が柱・横架材に直接打ち付けられず、四周の「受材」を介して軸組に取り付けられる構法です。
面材と軸組(柱・横架材の内法)の間にはクリアランス Δ1(横), Δ2(縦)があり、
水平力を受けた場合に① 面材釘と受材釘が直列ばねとして働く「等価釘」によるせん断抵抗機構と、
② クリアランスが潰れた後に面材が横架材にめり込むことで生じる圧縮筋かい効果、の2つが同時に発揮されます。
本ツールは §3.4 の規定式に従い、下記の手順で許容耐力を求めます。
(10-1) 面材寸法の拘束(自動算定)
真壁モードでは面材が軸組内法からはみ出さないよう、壁長 W と面材高さ H は軸組内法 w, h とクリアランスから自動算定されます(入力欄は readonly)。
1枚張り: W = w − Δ1, H = h − Δ2
2枚横並び: W1枚 = (w − 2·Δ1) / 2, H = h − Δ2
(10-2) 等価釘(面材釘+受材釘の直列合成)— (3.4.13)〜(3.4.16)
面材釘剛性 k面(面材-受材間)と受材釘剛性 k受(受材-軸組間)を直列ばねとして合成し、ピッチ比で荷重分担を考慮します。
k等釘 = 1 / ( 1/k面 + l受/(k受·l面) ) …(3.4.13)
ΔPy等釘 = min( ΔPy面, ΔPy受·(l面/l受) ) …(3.4.14)
δy等釘 = ΔPy等釘/k等釘 …(3.4.15)
δu等釘 = min( δu面−δy面+δy等釘, δu受−δy受+δy等釘 ) …(3.4.16)
ここで l面, l受 は面材釘・受材釘それぞれのピッチ。受材釘プリセット(表3.4.1)には J1〜J3 × N75/CN75/木ねじの組合せ計6種を用意しています。
(10-3) クリアランスによる初期あそび Ro — (3.4.3)
面材が剛体回転してクリアランスが潰れ始めるまでは、軸組に対して水平力を伝えない「遊び領域」があります。
Ro = { 2·(Δ1·h + Δ2·w) − Δ1² − Δ2² } / (2·w·h) …(3.4.3)
2枚張りの場合は w を「軸組内法 − 1枚分の面材幅」に置き換えて算定します(2枚横並びの中央クリアランスが主となる)。
(10-4) 等価釘による降伏・終局回転角 — (3.4.17)〜(3.4.19)
Ry等釘 = (Zxy/Ixy) · δy等釘 …(3.4.17)
Mu等釘 = Cxy·Zxy·ΔPy等釘·Aw …(3.4.18)
Ru等釘 = Ry等釘·(δu等釘/δy等釘) …(3.4.19)
(10-5) 面材の圧縮筋かい効果(横架材めり込みによる圧縮合力)— (3.4.20)〜(3.4.27)
面材の一対の対角(圧縮対角)が横架材(上下の梁・土台)に当たってめり込む際の抵抗を、弾性めり込み理論で等価な圧縮合力として扱います。
参考資料ではめり込み接触面長さ xp = w/2、接触面幅 yb = 面材厚 t を仮定し、次の係数を定義します。
Cyp = 1 + (2·Zb)/(3·n·yb) · { (y1/(2Zb))(1 − (y1/(2Zb))²/3) + (y2/(2Zb))(1 − (y2/(2Zb))²/3) } …(3.4.22)
Cw = (xp·yb·Cyp·E⊥) / (2·Zb) …(3.4.21)
K圧 = Cw·w² · 1/(1+β) …(3.4.20)
Cxp = 1 + 4·Zb/(3·n·yb) …(3.4.26)
Ct = 1 + 4·Zb/(3·xp) …(3.4.27)
αy = Zb·(0.8·Fcv) / ( xp·E⊥·√(Cyp·Cxp·Ct) ) …(3.4.25)
Ry圧 = (1+β)·αy …(3.4.24)
n は横架材の樹種ごとの全面横圧縮ヤング置換係数(スギ n=5, ヒノキ n=6, ベイマツ/アカマツ n=7)、
E⊥ は全面横圧縮ヤング係数、Zb は横架材せい、y1, y2 は圧縮対角に対する接触縁距離、
Fcv はめり込み基準強度、β は面材の縦横比剛性調整係数です。
(10-6) 第2勾配 K'圧 の近似((3.4.28)〜(3.4.34))
Ry圧 を超えた領域では圧縮合力の勾配が低下します。本ツールでは剛性比 α=1.8((3.4.32))の2勾配バイリニアモデルを採用し、
M(Ry等釘) ≈ K圧·Ry圧 + (K圧/α)·(Ry等釘 − Ry圧)
K'圧 = M(Ry等釘) / Ry等釘
と等価な第2勾配剛性を得ます。なお参考資料の式 (3.4.28)〜(3.4.36) のうちOCR不鮮明な項(Cu 等)は例題値との整合性を優先し近似化しています。
(10-7) 降伏・終局モーメント — (3.4.2), (3.4.9)
Ry等釘 と Ro+Ry圧 の大小で場合分けします。
K等釘 = Aw·Zxy·k等釘
Ry等釘 > Ro+Ry圧: My = (K'圧 + K等釘)·Ry等釘 …(3.4.2a)
Ry等釘 ≤ Ro+Ry圧: My = K圧·(Ry等釘−Ro) + K等釘·Ry等釘 …(3.4.2b)
Mu = Mu等釘 + Mu圧 …(3.4.9)
Mu圧 は (3.4.29)(3.4.35) に基づく圧縮側終局モーメントで、本実装では (K圧+K'圧)/2·Ry等釘 の近似を採用しています。
(10-8) 見かけの回転剛性と 1/150rad モーメント — (3.4.4)〜(3.4.7)
Ry = Ry等釘 + My/(Aw·GB·t) …(3.4.4)(3.4.5)
Kb = My/Ry …(3.4.7)
Ry > 1/150: M150 = Kb·(1/150) …(3.4.6a)
Ry ≤ 1/150: M150 = My …(3.4.6b)
Ru = min( Ru等釘, 1/30 ) …(3.4.10)
μ = Ru/Ry …(3.4.11)
(10-9) 複数枚張り・既存パイプラインとの接続
2枚横並びの場合、My, Mu, M150 を 2 倍します(Ry, Ru, μ は不変)。
既存の大壁用計算パイプラインでは K0 から K0/150 を用いる仕様となっているため、真壁では等価的に
K0,等価 = 150·M150
として渡し、(6) の Pa = (1/H)·min(My, K0/150, 0.2·√(2μ−1)·Mu) にそのまま適用します。
結果画面には真壁固有の中間値(k等釘, Ro, Ry等釘, Cw, Cyp, Cxp, Ct, αy, K圧, K'圧, K等釘, Kb, M150, Mu等釘, Mu圧)を展開表示します。
(10-10) 実装上の近似・制限事項
- K'圧: (3.4.28)〜(3.4.34) の完全な関数形が参考資料 OCR で不鮮明なため、α=1.8 のバイリニア近似を採用。
- Mu圧: (3.4.29)(3.4.35)(3.4.36) の Cu(終局時圧縮合力)を近似化。例題値に対し若干の誤差が生じ得ます。
- Cxp: 参考資料例題値 3.33 を再現する形 1 + 4·Zb/(3·n·yb) を採用。
- 柱の変形(曲げ・せん断)は剛と仮定。軸組の弾性変形は無視しています。
- 本近似式は §3.4 例題(面材 802×2727, N65@75 日型, 受材 J3+N75@100, スギ Zb=105, Δ1=Δ2=3 → Pa≈6.72 kN)の挙動に近い値を与えるよう調整していますが、精密な一致は保証しません。